医院の入り口に掲げています“Vita brevis, ars vero longa”という言葉に気付かれた方はおられるでしょうか。 これは医学の父ヒポクラテスの言葉ですが、偶然昨年の医学会総会でも、英語で同じ言葉“Life is Short Art is Long”というタイトルの特別講演がありました。「人生は短い、しかし医術の道は長い」という意味もあるそうです。みなさまのかかりつけ医として日々新しい医学の進歩の修得に努めていきたいと思っています。
診療内容
No.2では腎臓の働きについて簡単にご説明しました。体の余分な水分や老廃物を尿として体外に排泄したり血圧、造血にも影響している腎臓・・大事にしてできるだけ悪くならないようにしたいものです。そのためには、生活習慣の改善、食事療法、薬剤による予防治療が必要になりますが、末期腎不全にいたってしまった場合には治療として、腎移植、血液透析、腹膜透析があります。移植以外に機能を補う治療が進んでいる点で、腎臓は他の臓器とは少し異なります。けれども「透析」とは膜を介する物質の拡散のことで、透析療法は腎臓のろ過機能は代行しますが、ホルモン生成などの他の機能すべてを補うことはできません。
「血液透析」はその設備のある施設へ週3回、1回4時間程度通い、血液を体外で人工腎臓(ダイアライザー)を通して水分や老廃物を除去し、体に戻します。最近は自宅に血液透析設備を設置し、家庭透析も行なわれています。「腹膜透析」は透析液を腹腔内に貯留し腹膜自体の透析作用を利用して血液の余分な物質を除去する方法です。
自分のお腹の内臓や腹壁を覆っている腹膜が腎臓の代わりになるろ過作用を持っていてそれを利用できるということは人体の不思議を感じます。約80年前にドイツ人のGanter先生が、腹膜を還流すると尿毒症の症状が緩和することに気づき、その後研究が進み約30年前より今のような腹膜透析の治療法が確立してきました。
腹部に留置したカテーテルから腹腔内に透析液を注入して貯留させていると体の余分な水分、老廃物などが徐々に腹膜を通して腹腔内に出てきます。その透析液をカテーテルを通して体外に出し、新しい透析液を注入します。貯留時間や注入回数は人によって異なりますが、長所としては、腹膜を利用して毎日連続的に透析がなされること、自宅でできて大きな機械が要らず、注排液の時間以外は自由に動けて社会復帰がしやすいことなどです。短所としてはカテーテルが腹腔内に留置されているため腹膜炎に注意が必要なこと、数年後に腹膜が傷んで機能が低下し血液透析に移行する場合があることなどです。最近では腹膜が傷むのを防ぐ透析液が開発されています。当院では病院との連携を保ち腹膜透析に積極的取り組んでいます。